文芸社文庫NEO作家4名さま
紀伊國屋書店新宿本店へご招待
5,000円分
好きな本を買う!
ある日のこと
NEO作家さんたちって、どんな本を読んでんだろね?
そんな素朴な疑問が文芸社会議室でポッと宙に浮かんだある日の午後。なんの気なしにスマホでX(旧Twitter)をいじると、目に飛び込んできたのはSNS上で仲よくなった文芸社文庫NEOの作家たちが東京に集まるとの投稿。日本各地はもとより、はるか遠くアメリカからも参集し、そのうえ文芸社まで挨拶に訪れて……なんてことが楽しい旅行の予定のように語られている。会議中、誰かが言った冒頭の疑問──NEO作家さんたちって、どんな本を読んでんだろね? が耳に残っていた文芸社販売部員は静かに呟いた。
「のっかるしかない──」
5千円分の予算があったら、どんな本を買いますか?
そんな問いかけとともに、予算分の図書カードをお渡ししたのは、『チューニング!』の風祭さん、『弁当男子の白石くん』の月森さん、『幽霊とペリドット』の位ノ花さん、『もののふうさぎ!』の坂井さんの4人。企画にご協力いただいた紀伊國屋書店新宿本店の玄関口に集合して1時間の自由行動。
※ご来店のお客様のプライバシー保護のため、画像の一部にモザイクを入れています。
紀伊國屋書店新宿本店2階に向けて、いざ出陣! 皆さん、準備してきた買い物リストにあらためて目を通し準備万端です。
親切で丁寧なご案内に聞き入る4人。紀伊國屋書店新宿本店の文庫担当(当時)の森さん、ご協力ありがとうございました!
その後はお互いどんな本を買ったのかは秘密にして、文芸社のサロンに移動していよいよお披露目です! 本を読むことと小説を書くことの関係、文芸社文庫NEOへの思いなど、いろいろなお話を伺いました。
参加作家ご紹介
坂井 のどか
Sakai Nodoka
富山県出身、宇都宮在住。さそり座。大学では中国文学を専攻。バックパッカーで中国全土を数か月間かけて放浪し、10キロ痩せて帰国。現在はIT系の仕事に従事。居合道某流派二段の経験あり。第6回文芸社文庫NEO小説大賞の最終選考ノミネート作を『もののふうさぎ!』として2024年に出版。
位ノ花 薫
Inohana Kaoru
栃木県出身。美術系の専門学校を卒業。第75回栃木県芸術祭文芸賞受賞(創作部門)。第5回文芸社文庫NEO小説大賞の最終選考ノミネート作を『幽霊とペリドット』として2023年に出版。
月森 乙
Tsukimori Oto
千葉県市川市出身。日本大学文理学部中国文学科卒。商社勤務を経てオランダ、アイスランド、ハワイ、ドイツ等に移り住む。アメリカ合衆国オハイオ州在住。第6回文芸社文庫NEO小説大賞で大賞を受賞し、2023年『弁当男子の白石くん』を出版。今回は一時帰国中。
それでは皆さん、それぞれ順番に選んできた作品をご紹介ください。まず買った本をテーブルに出していただいて、どうしてその本を選んだのかを──という司会の編集担当の声で口火を切った座談会。トップバッターの風祭さんが選んだ本は……
購入リストは用意しているはずですが、まずは書店散歩を楽しむように全棚を隈なく見てまわる風祭さん。
風祭さん選書/合計:4,719円也
■杉井光『世界でいちばん透きとおった物語』(2023年4月 新潮文庫 737円)
■似鳥鶏『叙述トリック短編集』(2021年4月 講談社タイガ 858円)
■もえぎ桃『トモダチデスゲーム 地獄の沙汰も金次第』(2024年1月 講談社青い鳥文庫 748円)
■綾辻行人『十角館の殺人 新装改訂版』(2007年10月 講談社文庫 946円)
■西出ひろ子『改訂新版 入社1年目ビジネスマナーの教科書』(2023年3月 プレジデント社 1,430円)
風祭 ── まずは『世界でいちばん透きとおった物語』。これは電子じゃなくて「紙」で読んだほうが絶対いい! ということしか知らなかったんだけど、ずっと気になっていました。次の『叙述トリック短編集』は、叙述トリックという手法を使って私自身が作品を書いてみたいなっていう思いがあって、それで読んでみたいなって。3冊目の『トモダチデスゲーム』のもえぎ桃先生は、実は私がすごく好きで、お世話にもなっている作家さんで、これはそのシリーズの最新刊です。
4冊目の『十角館の殺人』は、地元でビブリオバトルをやっていたときに紹介された本です。薫さん(註:位ノ花さん)もX(旧Twitter)でおもしろいって言っていた記憶があって、読んでみようかなと思いました。
位ノ花 ── 『十角館の殺人』の話、してましたね!
月森 ── ごめんなさい。叙述トリックって??(笑)
坂井 ── なんていうか、文章で嘘をつかずに読者を騙すというか、読者のミスリード(misread)を利用したトリックです。読む人にあえて“じゃないほう”と思い込ませるように書いておいて、最後のほうで実は違うことがわかる──みたいな、文章だからこそできるトリック。
月森 ── へぇ、そんなのがあるんだ。すごい! いや、やってみたい!
坂井 ── 最後でどんでん返しがある本はやっぱり人気ですね。読むほうも、わかっていながら気持ちよく騙されるんだよねー。
風祭 ── 最後の『入社1年目ビジネスマナーの教科書』は、もう完全にいまの自分の仕事に必要な一冊で(笑)。社会人1年目なんです。
少し前であれば「趣味」と「実益」の双方の面で本選びをした──ということなのかもしれませんが、風祭さんはいまやすでに2冊の本を上梓。それでもふだんのお仕事の目線でも本選びをする堅実さ……さすがです。さてさて、二番手の坂井さんが選んだ本は……
坂井さんの自作『もののふうさぎ!』がズラリと平台に積まれた紀伊國屋書店新宿本店。これはうれしい!
坂井さん選書/合計:4,928円也
■朝日文庫編集部『ハンギョドンの『老子』 穏やかに過ごす道しるべ』(2024年3月 朝日文庫 660円)
■千葉ともこ『火輪の翼』(2024年3月 文藝春秋 2,200円)
■劉慈欣『三体』(2024年2月 ハヤカワ文庫SF 1,210円)
■天花寺さやか『京都・春日小路家の光る君』(2024年3月 文春文庫 858円)
坂井 ── まずはこれ、ハンギョドンの『老子』!
月森 ── ハンギョドン、なつかしー! ちょ、ちょっと見ていい?(ハンギョドンの本を手に取る) わかりやすい! ひと言で絵といっしょに紹介していくのがすごい! これ、もしかしてけっこう売れてる?
坂井 ── 売れてるみたいですよ。いかにも難解な「老子」が、まさかのハンギョドンとコラボレーション! 私はYouTuberのまあたそさんが大好きで、まあたそさんがハンギョドンの大ファンなんですよ。『ものうさ(註:『もののふうさぎ!』のこと)』で主人公のうさぎが刀袋に付けているキーホルダーの描写があるんですけど、あれはもともとハンギョドンのキーホルダーの設定だったんです。
月森 ── いいね、著者自身が自作を略して“ものうさ”って(笑)
坂井 ── で、次は、私がその背中を追いたい憧れの作家、千葉ともこ先生の最新刊『火輪の翼』! きのう発売したばかりですー!
月森 ── カバーからすると……、これはファンタジー?
坂井 ── いえ、歴史ものです。西暦でいうと750年ぐらいの「安史の乱」っていう、世界で一番人が死んだといわれてる戦乱の時代が舞台です。(表紙のイラストを指して)これ、女の子なんです! 女性の相撲レスラー。千葉ともこ先生は見た目は上品な感じなのに、格闘技大好きなんです。この小説は、反乱を起こした者の息子たちが、乱世をどうにかして治めなきゃいけないと奮闘する物語。私は千葉ともこさんに憧れていて、この人の背中を追うために、1年前に同じ小説教室に入りました。千葉先生が書く物語は、すごくハードなんです。重厚な物語。北方謙三のようなものを女性が書いたらこうなるかも──みたいな。
月森 ── キタカタ……、それは相当だねー(笑)! すごい。
坂井 ── 3冊目の『京都・春日小路家の光る君』は、4人の許嫁がいるという、おいおい、どういうことー??な設定の本です。作者の天花寺さやかさんは、京都生まれの京都育ちで、京都の魅力をあますことなく描ける作家さんです。『京都府警あやかし課』というシリーズもあって、それはいろいろな犯罪をやっちゃうあやかしを退治する人たちの物語なのですが、今回買ったこれは新しい別のシリーズで、ちょっとかわいいファンタジー。
で、最後、「人類は滅びなければならない!」て帯の『三体』も文庫版が出たばっかり。中国の作家が描いたSFってどんなんだろうって思って選びました。あと、とにかくめちゃくちゃ売れまくってるし。全世界累計発行部数が2,900万部!
月森 ── 売れまくりだよねー。私も『三体』は、どうしようかなどうしようかなって思いつつもまだ買ってない。今度感想聞かせてね。
坂井 ── 私はふだんSFってそんなに読まないんだけど、こういう機会だからこそ、いつも読まないタイプの本を読んだほうが絶対いいと思って買いました。そしてどうせなら話題になっているスゴいやつを読んだほうがいいかなって。
自分の好きなもの、好きなこと、それがしっかりと見えているような坂井さんらしい選書です。それでいてコアでニッチな方向ばかりに走っていないのも素敵です。しかし『三体』、全世界で2,900万部って……版元の人間としては目が眩みます。次なる三番手、位ノ花さんが選んだ本は……
真剣に書棚と対峙する位ノ花さん。確かにその目線の先には、おもしろそうな本がズラーッと並んでます。
位ノ花さん選書/合計:4,950円也
■ロアルド・ダール『魔女がいっぱい』(2006年1月 評論社 1,430円)
■ロアルド・ダール『奇才ヘンリー・シュガーの物語』(2006年10月 評論社 1,540円)
■バーネット『秘密の花園 新装版』(2006年12月 西村書店 1,980円)
位ノ花 ── 『秘密の花園』は図書館で読んだときにすごく感動して、本棚に飾りたいなってずっと思ってました。
月森 ── わー、かわいいー! 絵が好きで?
位ノ花 ── はい、本の内容は図書館で読んだから知ってるんだけど、それでも手元にほしいなと思ったので、やっぱりジャケ買い(笑)。ロアルド・ダールのほうは、私ずっとその児童書を集めていて、今回は持ってなかった2冊を買いました(註:ロアルド・ダールは映画『チャーリーとチョコレート工場』の原作でも有名な作家)。子ども向けなんですけど、ブラックユーモアがすごくブッ飛んでいておもしろいんです。なので、この本もぜひ本棚に収めたいので買いました。
月森 ── みんなは4、5冊だけど、位ノ花さんはこの3冊で予算いっぱい?
位ノ花 ── そう、これで総額4,950円です。皆さんは?
風祭 ── 私は300円くらいあまりました(笑)
坂井 ── 私は紙袋の10円込みで4,938円、残金62円。負けるとはー!(笑)
月森 ── 私は3,000円くらいオーバーしちゃった(笑)。やっぱりこういう一時帰国したときって和書をごそっと買いたいんだもん。しかも天下の新宿紀伊國屋さんだし。。
小説を書くうえでテクニカルな面で参考になる作品を選ぶ方が多いなか、自身の創作の背景となるような3冊で〆た位ノ花さん。「自分の本棚に収めたい」って、本を選ぶときの重要なモチベーションかもしれません。さて、大トリの月森さんはまさかの予算オーバー。そこまでして選んだ本とは……
広すぎる紀伊國屋書店新宿本店で一期一会で本を探すのは非現実的。惑うことなくまずは検索機へ向かう月森さん。
月森さん選書(予算内分)/合計:4,266円也
■藤崎翔『逆転美人』(2022年10月 双葉文庫 836円)
■上阪欣史『日本製鉄の転生 巨艦はいかに甦ったか』(2024年1月 日経BP 1,870円)
■遠藤かたる『推しの殺人』(2024年2月 宝島社文庫 790円)
■雨穴『変な家 文庫版』(2024年1月 飛鳥新社 770円)
月森 ── 最初に風祭さんから叙述トリックの話が出ましたけど、私が選んだこの『逆転美人』も紙の本でしかできないトリックを使った小説ですね。以前、『世界でいちばん透きとおった物語』(新潮社)を買ったときに、『逆転美人』とどっちを買おうか悩んで、『世界で──』を買ったので、今回こちらを買いました。『世界で──』もあえて電子書籍版を出してないくらい、「紙」じゃないと……って本でした。でもまあ今回は『逆転美人』。作者の藤崎翔さんって、もとはコメディアンだったんだって。だからおもしろいんだよねー。で、そのお隣が『日本製鉄の転生』。実は私の一番肝入りの小説ジャンルが経済小説なんですが、この本は鉄鋼業の世界を扱ったまさにその経済小説。私が日本で働いていたころの時代には、すでに日本の鉄鋼業は円熟期を過ぎていたはずなんですが、そのころを書いた小説を人に見せたら「いま鉄鋼業界は最高益を出してるんだよ。時代設定が合わないじゃん。設定を20年前にしたほうがいい」ってアドバイスされたんですよね。それで経済小説を書くんだったら、まずは読まなきゃだめでしょって思って買いました。で、次はそこから断然落差があるんですが『推しの殺人』。アイドルが殺人をするんです。純粋におもしろい設定だなと思って。
坂井 ── 『推しの殺人』は、このミス文庫賞ですよね!(註:第22回『このミステリーがすごい!』大賞 文庫グランプリ受賞)
月森 ── そうそう。あと『変な家』も買いました。風水が好きなんですが、そんな風水や間取りでミステリーをやるっていうのは斬新だなと思って。
坂井 ── で、5,000円をオーバーしたのはどんな本ですか? そっちも気になる(笑)
月森さん予算外
■高千穂遙『ダーティペアの大脱走』(1995年7月 ハヤカワ文庫JA 946円)
■高千穂遙『ワームウッドの幻獣』(2009年9月 ハヤカワ文庫JA 902円)
■綾辻行人『十角館の殺人 新装改訂版』(2007年10月 講談社文庫 946円)
月森 ── まずは高千穂遙さんの2冊『ダーティペアの大脱走』と『ワームウッドの幻獣』。これはもう私の原点。女の子パーティがすっごくかっこいい! 私が小学校5年生のときに読んでたくらいなのでかなり前の作品なのですが、シリーズがまだつづいてるんですよ。すごくないですか!?
坂井 ── あ、うちの旦那この方面たぶん詳しいと思う。聞いてみよう。
月森 ── そうそう、私こういう疾走感の溢れる作品がほんと好き! あとは、位ノ花さんオススメで、風祭さんも買った『十角館の殺人』。息長くずっと売れつづけてるっていうから、ちょっと読んでおきたいと思って。
位ノ花 ── あとでわかったんですが、私は大切な一行を読み飛ばしちゃってました。だからおふたりは気をつけて!(笑)
風祭 ── じゃあ、丁寧に読んだほうがいいですね! このあと読むのが楽しみです!
前編のむすび
趣味嗜好を貫いて選書した計16(+3)冊を前に、話がいっこうに途切れそうにない文芸社文庫NEO作家4氏。それぞれが選んだのは、新作旧作問わず、ジャンルにしても縦横無尽。「おもしろそ!」と思ったら、迷わず書店の棚から手に取る本を選ぶ各氏の背中を拝見し、またそれらを前にトークに花咲かせている様子を見て、こうした作家たちに支えられる今後の文芸社文庫NEOの未来は明るいな──と、つくづく感じ入る文芸社社員たちでした。
本稿は後編の公開も予定しています。文芸社文庫NEO小説大賞をきっかけに作家デビューを果たした共通点を持つ4人。それを軸に「本の世界」が好きになったそもそものきっかけ、またそこから「小説を書こう」と思ったきっかけなどを語っていただきます。次回の特集ページ公開は本年秋ごろ。お楽しみに!